ヤマハのVPNルーターを選ぶとき、いちばん迷いやすいのが RTX840 と RTX830 です。
どちらも小規模拠点向けのギガアクセスVPNルーター。
見た目もポート構成もかなり近く、スループットもどちらも最大2.0Gbit/sです。
ぱっと見では「新しいRTX840を選べばいいのでは?」と思いますよね。
結論からいうと、これから新品で導入するなら基本は RTX840 がおすすめです。
ただし、VPN拠点数の拡張ライセンスや中古価格まで含めると、RTX830 が合うケースもあります。
この記事では、公式仕様、ニュースリリース、技術資料、販売価格、ライセンス対応、実運用で効くポイントまで確認しながら、RTX840 と RTX830 の違いをかなり深く整理します。
まず結論。RTX840はクラウド時代向け、RTX830は実績と価格が強い
大きな方向性ははっきりしています。
RTX830 の使い勝手や設置性はなるべく変えず、クラウドサービス利用が増えた現場で詰まりにくくしたモデル。
それが RTX840 です。
とくに差が出るのは、次の3つです。
- RAMが
256MBから1GBに増えた - NATセッション数と動的フィルターセッション数が
65,534から150,000に増えた - ローカルブレイクアウト機能が標準搭載された
一方で、RTX830 も弱いルーターではありません。
スループット最大2.0Gbit/s、IPsecスループット最大1.0Gbit/s、VPN対地数20、LAN4ポート+WAN1ポートという基本性能は、RTX840 とかなり共通しています。
つまり、選び方はこうです。
クラウドサービス、Microsoft 365、Google系サービス、Windows Update、Web会議、SaaS利用が多い拠点なら RTX840。
価格を抑えたい、既存のRTX830構成を活かしたい、VPN拡張ライセンスを使いたいなら RTX830 も候補になります。
RTX840とRTX830の違いを一覧で比較
まずは、主要スペックを表で見ていきます。
| 比較項目 | RTX840 | RTX830 |
|---|---|---|
| 発売時期 | 2025年8月 | 2017年10月 |
| 位置づけ | RTX830の後継モデル | 小規模拠点向け定番モデル |
| 希望小売価格 | 121,000円(税込) | 106,700円(税込) |
| RAM | 1GB | 256MB |
| Flash ROM | 64MB | 32MB |
| スループット | 最大2.0Gbit/s | 最大2.0Gbit/s |
| IPsecスループット | 最大1.0Gbit/s | 最大1.0Gbit/s |
| NATセッション数 | 150,000 | 65,534 |
| 動的フィルターセッション数 | 150,000 | 65,534 |
| TCPコネクション処理性能 | RTX830比で約30%強化 | 基準 |
| ローカルブレイクアウト | 標準搭載 | DPIなどを使う構成が中心 |
| JC-STAR | レベル1適合 | 記載なし |
| VPN対地数 | 20 | 20、ライセンスで最大100まで拡張可 |
| LAN/WANポート | LAN×4、WAN×1 | LAN×4、WAN×1 |
| ポート速度 | 全ポート1GbE | 全ポート1GbE |
| 10GbE / 2.5GbE | 非対応 | 非対応 |
| microSD | 1スロット | 1スロット |
| USB | USB 2.0 Type-A×1 | USB 2.0 Type-A×1 |
| コンソール | RJ-45、USB Mini-B | RJ-45、USB Mini-B |
| サイズ | 220×43.5×160mm | 220×43.5×160mm |
| 重さ | 1.1kg | 1.1kg |
| 最大消費電力 | 12W | 11W |
表だけ見ると、筐体やポートはほぼ同じです。
でも、中身はかなり違います。
RTX840 の本質は、ポートを増やしたことではありません。
メモリーとセッション処理を増やし、クラウド通信を逃がしやすくしたことです。
いちばん大きい違いはNATセッション数
RTX840 と RTX830 の差で、まず見るべきなのはNATセッション数です。
RTX830 は 65,534。
RTX840 は 150,000。
単純計算で約2.3倍です。
小規模拠点のルーターで「速度は出ているのに、なんとなく重い」「Web会議の時間帯だけ詰まる」「クラウドストレージ同期が重なると不安定」というとき、回線速度だけではなくセッション数が効いていることがあります。
たとえば、今の業務環境では次のような通信が同時に走りがちです。
- Microsoft 365
- Google Workspace
- TeamsやZoomなどのWeb会議
- Windows Update
- クラウドストレージ同期
- ブラウザーで開きっぱなしのSaaS
- セキュリティソフトの通信
- スマホやタブレットのバックグラウンド通信
1人あたりの通信量が昔よりかなり増えています。
そのため、ユーザー数がそこまで多くなくても、セッション数は思ったより伸びます。
RTX840 はここを強化したモデルです。
「回線は1Gbps級だけど、クラウド利用が多くてルーター側の余裕が欲しい」という現場では、RTX830 より安心しやすいです。
RAMは4倍。長く使うならここが効く
RAMも大きく違います。
こちらも4倍です。
ルーターのRAMは、パソコンのメモリーのように分かりやすく体感しづらい部分です。
ただ、セッション数、フィルター、ルーティング、管理機能、ログ、クラウド系の処理が増えるほど余裕が大事になります。
今のネットワークは、導入時より通信が減ることはあまりありません。
Microsoft 365を使い始める。
Web会議が増える。
EDRやクラウド型セキュリティ製品を入れる。
バックアップや同期先がクラウドになる。
こういう変化が重なると、拠点ルーターにかかる負荷はじわじわ増えます。
数年使う前提なら、RAMに余裕のある RTX840 のほうが選びやすいです。
スループットは同じ。ここは勘違いしやすい
注意したいのは、スループットです。
RTX840 は新型ですが、スループットは最大2.0Gbit/s。
IPsecスループットも最大1.0Gbit/sです。
これは RTX830 と同じです。
つまり、RTX840にしたからといって、カタログ上の最大スループットが一気に上がるわけではありません。
また、どちらも10GbEや2.5GbEには対応していません。
LAN/WANポートは、どちらも10BASE-T / 100BASE-TX / 1000BASE-Tです。
ここはかなり大事です。
10Gbps回線やマルチギガ回線を前提にするなら、RTX840ではなく上位機種の検討が必要になります。
RTX840は「RTX830より多セッション・クラウド利用に強い1GbEクラスの拠点ルーター」と見るのが正確です。
ローカルブレイクアウトはRTX840の目玉
RTX840 の大きな特徴が、ローカルブレイクアウト機能です。
ローカルブレイクアウトとは、本社やセンターを経由させず、特定のクラウドサービス向け通信を拠点から直接インターネットへ出す考え方です。
たとえば、複数拠点の通信をすべて本社経由にしていると、Microsoft 365やWindows Updateまでセンター回線を通ります。
すると、センター側のルーターや回線が混みます。
拠点側から見ると、クラウドサービスが重い。
本社側から見ると、関係ないクラウド通信で帯域が食われる。
なかなかつらい構図です。
RTX840 は、通信先リストを使ったローカルブレイクアウト機能を標準搭載しています。
対象としては、Microsoft 365、Google系サービス、Windows Updateなどの通信先リストをヤマハ管理のサーバーから自動取得する仕組みが案内されています。
ここは、RTX830 との差としてかなり分かりやすいです。
RTX830でも、DPIやフィルター型ルーティングなどを組み合わせてインターネットブレイクアウト的な構成を取る考え方はあります。
ただし、RTX840のほうが、クラウドサービスを直接逃がす運用を前提に設計されています。
小規模拠点でもクラウド利用が中心なら、RTX840を選ぶ理由になります。
VPN対地数は少しややこしい
VPN対地数だけを見ると、標準ではどちらも20です。
ここだけなら同じです。
ただし、RTX830 はVPN拡張ライセンス YSL-VPN-EX1 に対応しており、ライセンス適用でVPN対地数を最大100まで拡張できます。
ここは見落としやすいポイントです。
多数の拠点をRTX830で束ねる構成や、すでに YSL-VPN-EX1 を使っている環境では、RTX840へ単純置き換えする前に設計確認が必要です。
もちろん、RTX840は後継機として処理性能やセッション数が強化されています。
ただ「VPN対地数を増やす」という観点では、RTX830+拡張ライセンスのほうが合う場面があります。
拠点側ルーターとして20対地以内で使うならRTX840。
センター寄りの使い方で、RTX830の拡張ライセンスを前提にしているなら、RTX830継続や上位機種も含めて検討。
この切り分けが安全です。
設定移行はしやすい
RTX840は、RTX830の使い勝手をそのまま引き継ぐことが強く打ち出されています。
公式でも、RTX830の設定情報をそのまま利用でき、置き換えが簡単と案内されています。
これは現場ではかなり大きいです。
ルーターの入れ替えは、スペック表だけで見ると簡単そうに見えます。
でも実際には、以下のような確認が必要です。
- インターネット接続設定
- NAT設定
- IPフィルター
- VPN設定
- DHCP設定
- VLANやLAN分割
- 監視やログ
- 拠点間通信
- 管理用アクセス
設定互換性があるなら、既存RTX830からの置き換えハードルは下がります。
ただし、既存環境で拡張ライセンス、特殊なLuaスクリプト、細かいフィルター型ルーティング、DPI連携などを使っている場合は、事前検証したほうが安心です。
サイズと設置性はほぼ同じ
筐体サイズはどちらも 220×43.5×160mm。
重さもどちらも約1.1kgです。
LANポートは4つ、WANポートは1つ。
microSDスロット、USBポート、RJ-45コンソール、USB Mini-Bコンソールも共通です。
つまり、ラック、棚、壁面設置、既存ケーブルの取り回しはかなり近い感覚で考えられます。
RTX830を使っていた場所にRTX840を置き換えやすいのは、この物理面の互換性もあるからです。
ただし、最大消費電力はRTX830の11Wに対し、RTX840は12Wです。
大きな差ではありませんが、PoEスイッチのように多数台をまとめて管理する機器ではないとはいえ、常時稼働機器なので一応見ておきたいポイントです。
セキュリティ面ではRTX840が新しい
RTX840は、「JC-STAR」レベル1に適合している点も特徴として案内されています。
ネットワーク機器は、速度だけで選ぶ時代ではありません。
ファームウェア更新、管理画面、リモートアクセス、ログ、セキュリティ基準への対応など、運用面の安心感も大事です。
RTX830も長く使われてきた実績のある機種ですが、新規導入でこれから数年使うなら、より新しいRTX840を選ぶ理由はあります。
とくに法人利用では、セキュリティ基準や調達要件に引っかかることがあります。
その場合、単純な価格差よりも、現行モデルであることやセキュリティ適合の説明がしやすいことがメリットになります。
価格差はどう見るべきか
希望小売価格は、RTX840 が121,000円(税込)。
RTX830 が106,700円(税込)です。
差は14,300円です。
ただ、実売価格は販売店や時期で変わります。
RTX840は8万円台前半で販売されている例があり、RTX830は新品で6万円台後半、中古で4万円台前後の販売例がありました。
価格だけで見るなら、RTX830のほうが安く導入しやすいです。
ただ、法人ルーターは本体価格だけで判断しないほうがいいです。
業務時間中に通信が不安定になる。
Web会議が止まる。
クラウドサービスが重い。
VPNが詰まる。
こうなると、機器代の差よりも業務影響のほうが大きくなります。
そのため、新規導入ではRTX840を基本に考え、予算をかなり抑えたい場合だけRTX830を検討する流れが無難です。
RTX830からRTX840へ置き換えるべきケース
すでにRTX830を使っているなら、次のような症状があるかを見てください。
- Microsoft 365やGoogle Workspaceの利用が増えた
- TeamsやZoomの時間帯に通信が重い
- Windows Updateやクラウド同期で拠点回線が詰まりやすい
- NATセッション数や動的フィルターセッション数に余裕がない
- 拠点からクラウドへ直接抜ける構成にしたい
- RTX830を今後も数年使うのが不安
- 新規拠点の標準機を現行モデルにそろえたい
これらに当てはまるなら、RTX840への置き換えはかなり前向きに検討できます。
とくに「速度測定では問題ないのに、業務アプリだけ重い」というケースでは、単純な回線速度よりもセッション処理や通信経路の見直しが効くことがあります。
RTX840は、まさにその方向の改善に寄せたモデルです。
RTX830のままで十分なケース
逆に、次のような環境ならRTX830のままでも十分なことがあります。
- 利用人数が少ない
- クラウドサービス利用がそこまで多くない
- Web会議やクラウド同期の負荷が軽い
- NATセッション数に余裕がある
- VPN対地数20以内で問題ない
- すでに安定稼働している
- 予備機や中古調達を含めてコストを抑えたい
RTX830は、発売から時間が経っているぶん実績があります。
小規模オフィス、店舗、単純な拠点間VPN、一般的なインターネット接続なら、まだ十分使える場面はあります。
ただし、これから新品で長く使う前提なら、RTX840との価格差だけでRTX830を選ぶのは少し慎重に考えたいところです。
RTX830を選ぶなら「安いから」だけではなく、「この環境ではRTX840の強化点が不要」と説明できる状態が理想です。
RTX840がおすすめな人
RTX840 は、こんな人に向いています。
- これから新品で小規模拠点ルーターを導入する人
- RTX830の後継モデルを選びたい人
- Microsoft 365やGoogle系サービスをよく使う拠点
- Web会議やクラウドストレージ同期が多い環境
- NATセッション数に余裕を持たせたい人
- ローカルブレイクアウトを使いたい人
- 既存RTX830を無理なく置き換えたい人
- 現行モデルを数年使いたい法人ユーザー
RTX840は、単純な高速化モデルというより、クラウド利用が増えた現場に合わせた安定化モデルです。
1GbEクラスの拠点ルーターとして、今から選ぶならこちらが本命です。
RTX830がおすすめな人
RTX830 は、こんな人に向いています。
- できるだけ安くヤマハのVPNルーターを導入したい人
- 中古や予備機として調達したい人
- 既存のRTX830構成を維持したい人
- クラウド利用が少なく、現状で安定している拠点
- VPN拡張ライセンスYSL-VPN-EX1を使いたい人
- 標準20対地では足りず、RTX830のライセンス運用を前提にしている人
RTX830は、価格と実績が魅力です。
とくに中古市場まで含めると、導入コストをかなり抑えられることがあります。
ただし、法人の本番環境で中古を使う場合は、保証、ファームウェア、設定初期化、故障リスク、予備機の有無まで見ておきましょう。
迷ったときの選び方
迷ったら、次の順で考えると整理しやすいです。
1つ目は、新規導入か置き換えか。
新規導入なら、基本はRTX840です。
今後のクラウド利用増加まで考えると、RAMとセッション数に余裕があるほうが安心です。
2つ目は、クラウド通信が多いか。
Microsoft 365、Google Workspace、Web会議、クラウドストレージ、Windows Updateが多いならRTX840が向きます。
3つ目は、VPN対地数を拡張したいか。
RTX830はYSL-VPN-EX1でVPN対地数を最大100まで拡張できます。
この使い方を前提にしているなら、RTX840だけでなくRTX830継続やRTX1300以上も含めて検討しましょう。
4つ目は、マルチギガが必要か。
10GbEや2.5GbEが必要なら、RTX840でもRTX830でも足りません。
上位機種を見たほうがいいです。
RTX840とRTX830の違いまとめ
RTX840 と RTX830 の違いは、ポート数や基本スループットではありません。
いちばん大きいのは、クラウドサービス利用が増えた環境での余裕です。
RTX840 は、RAM 1GB、NATセッション数150,000、動的フィルターセッション数150,000、ローカルブレイクアウト標準搭載という点で、RTX830より今の業務ネットワークに向いたモデルです。
一方、RTX830 は、スループット最大2.0Gbit/s、IPsec最大1.0Gbit/s、VPN対地数20などの基本性能が今でも強く、価格や実績、VPN拡張ライセンス対応に魅力があります。
これから新品で導入するなら、基本はRTX840。
すでにRTX830で安定していて、クラウド通信やセッション数に余裕があるなら、急いで買い替えなくても大丈夫です。
ただし、今後もクラウド利用は増えます。
小規模拠点の標準ルーターをこれから選ぶなら、RTX840を軸に考えるのが失敗しにくい選び方です。


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